2016年5月2日、当会では第2回農村教育事情視察ツアーをカンボジアで実施しました。今回のツアーには鹿児島県大隅地域から6名が参加、コンポンチュナン州のコンポン・レーン高校とタク・ホート中学校を訪れ、さまざまな物的支援を行ったほか、生徒の家庭を訪問し、子どもたちが置かれている厳しい環境の一端に触れる機会を得ました。
今年は現地の人たちも驚くほどの猛暑で、日中の気温は40度を超えていたとのことです。また、乾季の終わりということで緑が少なく、赤茶けた大地がとても印象的でした。
そんな厳しい環境の下、まず訪れたのがコンポン・レーン高校。プノンペンから車で2時間ほど移動した後、船でトンレサップ川を渡った地区にある学校です。到着すると赤く輝く大地に大勢の生徒が立ち並び、日本の国旗を手にして一行を迎えてくれました。外国からの訪問団を迎える際の「定番」です。
全校生徒による温かい歓迎を受ける訪問団
早速、式典会場に入り、初めに学校関係者から地区や学校の現状報告がなされた後、訪問団を代表して肝付町の税理士、窪田伸一さんからあいさつがありました。それに引き続き、同校に通う生徒の中でも特に経済的困難を抱えている生徒に対して文房具が贈呈されました。
家庭環境が厳しい生徒に文房具一式を贈呈
さらに今回の訪問のハイライトとなる支援物資の贈呈式が行われました。贈られたものは、ソーラーパネルや扇風機、各種寝具と台所用品など。同校に建つ女子寮で使われる品々です。
昨年12月に同校を訪問した際、女子寮が建ったとはいえ、建物があるだけで何もない状態だったことを窪田さんに報告したところ、「それなら多少のお手伝いはしてみよう」とのありがたい申し出があり、今回の支援が実現しました。
窪田さんから贈り物を受け取る同校の副校長(右)
現地調達された扇風機(ブランド名に注目!)
生徒らと記念撮影
贈呈式の後は、女子寮の見学です。日本の支援で建てられたという同僚の隣には、昨年12月には見られなかった大きな寮が建っています。韓国の団体が寄付したということで、寮のほかにも立派な台所が設置されていました。寮生らの暮らしが格段によくなっていることが容易に想像できます。
寮生と記念撮影
右が日本の支援で左が韓国の支援で建った学生寮
それが終わると学校関係者が朝から準備してくれたという手作り料理で昼食。地元でとれた魚や野菜を使った郷土料理に参加者は舌鼓を打つのでした。
学校の先生たちが時間をかけて用意してくれた料理を味わう訪問団の一行
午後からは授業参観が予定されていますが、それが始まるのは午後2時。まだ時間があります。授業が再開されるまでの時間を使って同校に通う生徒2名の家庭を訪問することになりました。
まず訪れたのは父親がモーターバイクの運転手をしているという男子生徒の家です。一日の稼ぎは2.5ドルしかなく、ガソリン代などを差し引くと実質的な稼ぎは1ドル程度。父親が家に残る一方、母親は遠くの工場に働きに出て、生活をささえているとのことでした。
このあたりにしては珍しく小さな竹林の向こうに少年の家はありました
少年の暮らす家の前で記念撮影
もう一人は街中の小さな家に暮らす女子生徒。卵や野菜などを売って生計をたてているということでしたが、見るからに生活は苦しそうです。
女子生徒が暮らす小さな家(手前に見えるのが売り物)
カンボジア農村の子どもにしては珍しくあまり笑顔を見せてくれないのが気になりました
午後2時となりました。学校に戻り、教室に行くと、日本では考えられない光景に遭遇しました。遅刻する生徒がいる一方、先生の姿が見当たらない教室があったのです。
参加者の中から「そういう遅刻する先生に対してどういう対応をしているのか?」という質問が出されると、学校関係者からは「注意するようにしている」との答えが返ってきました。のんびりしているといえばいいのか、いい加減といえばいいのか、びっくりするやらあきれるやらでした。
暑さにもめげず一生懸命学んでいます
あきれるといえば、今回の訪問では唖然とさせられることが一つありました。それは、生徒に贈られたはずものを一部の先生が「勝手」に取ってしまったという、本来あってはならないことでした。
贈ったものとは日本のふりかけ。昨年12月に訪問した際、寮生の多くが朝も昼もご飯しか食べていないという話を聞き、それなら日本のふりかけが役に立つだろうと思い、日本で買って持っていったものです。
ところが、そのふりかけを一部の先生が、われわれやNGO関係者の許可を得ることもなく、別の部屋に持っていくところが目撃されたのです。その部屋では先生たちが食事をしていましたので、おそらくそこでふりかけを食べたのでしょう。
正直、これには参加者も唖然としました。もちろん、先生といっても人の子です。彼らにしてみれば、日本から持ち込まれた珍しい食べ物を食してみたいという気持ちがあったのでしょう。それは理解できます。でも、われわれの見ている前で、何食わぬ顔をして子どもたちへの贈り物を持っていくというのは、やはりあってはならない行為です。少なくとも不信感を抱かせるに十分な行為だったといえます。
当然、今回の学校訪問を手配してくれた現地のNGO、EDFカンボジアの代表に「学校側にきちんと抗議してください」とお願いせざるをえませんでした。
せっかく外国から生徒に対して支援が行われたとしても学校側がそうしたいい加減な対応をすれば、支援をする側が不信感を抱き、やる気を失うのは当然です。そうなれば苦しむのは何の罪もない子どもたちです。こうした点は厳重に注意されなければなりません。今回の抗議で学校側の対応が今後、改められることを祈るばかりです。
それはともかく、授業参観ではいくつかの教室をのぞかせてもらいました。いちばん印象に残ったのは、クーラーはもちろんのこと、扇風機もない暑さのなか、必死に勉強する子どもたちのまなざしです。目に力があり、真剣さがひしひしと伝わってきます。そういう目を見るたびに、「この子たちの学びを少しでもお手伝いしたい」という気持ちがわいてきます。
真剣なまなざしが実に印象的です
授業参観が終わり、コンポン・レーン高校に別れを告げると、ふたたび船に乗り、次の訪問地であるタク・ホート中学校に向かいました。同校には昨年7月、窪田夫妻の支援によって建てられた女子寮があります。
学校に到着すると同校の校長先生からの出迎えがありました。およそ10ヶ月ぶりの再会に校長先生も窪田夫妻もうれしそうです。あいさつがすむと、早速女子寮に向かい、そこで暮らす寮生と再会しました。
同寮に対しては今回、窪田夫妻から追加支援として扇風機2台が贈られました。昨年12月に訪問した際、「ほかに必要なものはありませんか?」とたずねたところ、「扇風機があればうれしい」という声が上がったからです。
窪田夫妻との再会をよろこぶ校長
窪田夫妻の支援で建った女子寮に暮らす生徒たちと記念撮影
久しぶりに見る寮生の元気そうな姿に支援を申し出た窪田夫妻も満足そうな表情を浮かべています。彼らにしてみれば、カンボジアの子どもたちに支援をすることで、異国の地にたくさんの孫ができたような感じかもしれません。国や文化、言葉の壁を越えて両者の間に今後、さらに深い絆が育まれることを祈らずにはいられません。
日程と地理的な問題により、今回もまたわずか1日だけの農村の学校訪問となりましたが、実に密度の濃い訪問になったようです。
今回訪れた学校にはそれぞれ、日本と韓国の支援を受けて立派な学生寮が2棟建ち、子どもたちを取り巻く環境には一定の改善が見られます。しかしながら、カンボジア全体となれば、支援の必要な地域、学校はまだたくさんあります。当会としても、引き続き、できるだけの支援をしていきたいと考えます。
次回の訪問は今年12月を予定しています。